石川県のカニの季節

寒くなってくると、スーパーマーケットのチラシで、「カニ」の文字をよく見かけるようになる。石川県では、十一月のいつだったかにカニ漁が解禁になるらしくて、実際にスーパーマーケットに行くとお魚コーナーにたくさんのカニが並んでいる。

カニは地域によって呼び名が違っていると思うのだけれど、石川県ではオスはズワイガニで、メスのカニは香箱ガニと呼ばれる。たぶんズワイガニというのは一般的な名称だから他の地域でも通じるんじゃないかと思う。

価格はズワイガニは結構高くて、僕は驚いてしまう。高価なものだから、子どもの頃からズワイガニを食べる機会はあまりなかった。例えば、大人の行事、何かの新年会とかに、たまたま子どももついていくことになったりすると、そういう時にズワイガニを食べたこともあるけれど、普段の食卓ではなかなか食べられる機会はなかった。

一方、メスの香箱ガニはズワイガニとくらべると、ずっとリーズナブルだ。僕の子どもの頃は今よりももっと安かった。だから、手に入りやすくて食卓にたまに香箱ガニが出てくることがあった。ズワイガニはカニ脚の部分が大きくて、しっかりしていて、食べ応えがある。カニ脚のおいしさを味わうものなんじゃないかと思うけれど、香箱ガニのほうは、カニ脚の部分がすごく細くなっている。だから、ズワイガニのような食べ応えはないかもしれないけれど、しっとりしてやわらかくなっている。カニ脚にポン酢や酢醤油をかけて食べるとすごくおいしい。

香箱ガニを食べる時に楽しみにしていたのは、「内子(うちこ)」と呼ばれるところだ。ズワイガニの甲羅を開けるとカニみそが入っていると思うけれど、香箱ガニのほうには「内子」というオレンジ色のものも入っている。また、「外子(そとこ)」と呼ばれる卵みたいなのも外側についている。この「外子」はしっかりとしたプチプチ食感で子どもの頃は「おー、プチプチする」と思ったような気がする。

僕は香箱ガニの「内子」が好きだった。オレンジ色をしていて、独特の食感をしている。なんて言っていいのか、カニみそをさらに水分をなくして濃縮したような、いや、ちょっと魚卵を濃縮したような、どう言ったらいいのかわからないけれど、そういう食感で、味も本当に独特のうまみがあった。この「内子」は甲羅を開けてみないと中にどれぐらい入っているかわからないから、たくさん入っていたらラッキーと喜んだ。内子にもポン酢や酢醬油をかけて食べるとすごくおいしい。高価なズワイガニは食べる機会がほとんどなかったけれど、香箱ガニが食べられるだけでいいやと思っていた。

なのだけれど、いつの頃からだろうか、カニを食べるとかゆくなるという症状が出るようになった。最初はわからなかったのだけれど、「あれ？カニ食べるとかゆくなるのかな」と気づいてしまった。それからも、何回か食べたけれど、カニを食べるとやっぱりかゆくなった。検査をしたわけじゃないからアレルギーかどうかはわからなかったけれど、かゆくなるのはつらいから、カニを食べなくなった。

それ以来カニを食べていないから、もうかなり長い期間カニを食べていない。このあいだスーパーマーケットに行った時にカニがたくさん並んでいた。目立つレイアウトになっていたから、僕は注目した。ズワイガニはやっぱり高価だったけれど、香箱ガニはやっぱり意外とリーズナブルだった。

カニ食べてみようかなぁ……。かゆくなるかなぁ……。

結局買わなかったけれど、もう長いあいだ食べていないし、そのあいだに、かゆくなるのも治っているんじゃないか、という気もする。でも、本当に長い期間食べていなかったものだから、いざ食べる時には結構勇気が必要かもしれない。

カニの味自体は大好きだし、できれば食べたいなぁと思っている。カニの脚の部分を取り出して、ポン酢か、酢醬油か……。もしも、かゆくなるのが治っていて、またカニを食べる機会があったら、「内子」も食べたいなぁと思っている。

(2023.11.21 18:03:09)

ひとつ次のページへ

ひとつ前のページへ

トップページ

石川県のカニの季節

最近の投稿

これまで発表したもの